| はじめに
三畳紀における北アメリカの恐竜は、有名な西ヨーロッパや南アメリカのものほど知られていません。後期三畳紀の初め、恐竜は小型で種類も多くありませんでした。しかし、ジュラ紀の初めには優勢な陸上動物となり、
その後1億4000万年もの間、陸上を支配し続けました。恐竜はなぜ、どのようにして優勢になったのでしょ うか。
その謎は、後期三畳紀の北アメリカ大陸に存在した恐竜たちの記録をみなければ解き明かすことができません。この地域には、初期の恐竜進化を解き明かす手がかりが眠っているのです。
地質学的背景
三畳紀の北アメリカは、現在のすべての大陸が地続きだった「超大陸パンゲア」の一部でした。
ところが後期三畳紀にはご遠大陸パンゲアのいくつかの部分に亀裂が入り始め、現在の北アメリカにあたる部分にも2つのまったく異なった地理的状況が現れました。その東端は、現在のヨーロッパやアフリカに接していましたが、
長いくぼ地ができ始め、次第に拡大してそこに海水が入りこみ、大西洋が生まれました。このくぼ地は、現在のカナダのノヴァスコシア州からアメリカのサウスカロライナ州へも延び、大きな湖もありました。このくぼ地にできた岩は、
ニューアーク層群と呼ばれます。
地層に埋もれた動物の骨は比較的少数ですが、沼地には恐竜を はじめ、多くの爬虫・両生類の足跡が残りました。
いっぼう、西部は状況がまったく異なっていました。現在、北はアメリカのアイダホ州から南はテキサス州まで北アメリカを縦断する赤い岩がみられます。この岩は主に平地を流れる川の周囲に形成されたもので、チンリ層群と呼ばれます。ここは化石の宝庫で、とくにアリゾナ州、ニューメキシコ州、テキサス州が有名です。
ニューアーク層群にもチンリ層群にも、後期三畳紀の全年代にわたる地層が含まれています。後期三畳紀の地質年代は古い順に、カール期、ノール期、レート期に区分けされますが、チンリ層群ではそのすべての時期の恐竜化石がみられます。時期によってはニューアーク層群からも発見されますが、その数はチンリ層群にはるかにおよびません。
これらの化石は、古さでは、アルゼンチン、モロッコ、インドなど、地球上のあらゆる場所で発掘された恐竜化石にひけをとりません。
臆竃以外のキャラクター
北アメリカにおける後期三畳紀の陸上動物の大半は恐竜ではなく、ワニに近い系統の主竜類が優勢でした。よく知られているのは、水辺に生息するフイトサウルス類で、現生のインドガビアルに似た長い吻をもち、魚類や両生類、他の爬虫類を捕食していました。陸上ではラウィスクス類と呼ばれる大型の主竜類が、大きな鎧をつけたアエトサウルス類のような植物食の主竜類をえさにしていました。大型の単弓類であるディキノドン類は、三畳紀の初期には優勢な植物食動物でしたが、後期にはその子孫のプラケリアスのみが栄えていました。
プラケリアスの化石はチンリ層群でもニューアーク層群でも発見されています。
これらの地域では、奇妙なくち ばしをもつリンコサウルス類も、その最後の種類が生き残っていました。ほかには、長い肋骨の間に膜をもつ滑空性爬虫類イカロサウルスや、大きい椎のような尾をもつ水生爬虫類バンクレアベアなどもみられました。また、吻部が丸く、ショベルのように平らな頭をもつ大型の両生類メトポサウルス類も数多く生息していました。
チンリ層群とニューアーク層群では、爬虫類と両生類以外、たとえば魚類などの生物の化石も発見されています。また、チンリ層群は、最古の哺乳類であるアデロバシルスの化石が発見されたことでも有名です。
恐竜
恐草の化石は、北アメリカの後 網三畳紀の地層中ではめったに発見されませんが、その種類は粛常に多様です。最も一般的なグループは肉食恐竜で、2つのグループに分かれます。比較的原始的な一群は、キンデサウルスやカセオサウルスといったヘルレラサウルス類です。二の仲間は南アメリカのアルゼンチンやブラジルではよく知られ、
ヘルレラサウルスやスタウリコサウルスもこれに属します。
別の一群はケラトサウルス類で、有名なコエロフイシスと、知名境では劣るエウコエロフイシスなどが含まれます。コエロフイシスは、ニューメキシコ州北部のゴースト・ランチで数百体もの骨格化石の集積地が発見されました。こ
れは、後期三畳紀の最も有名な肉食恐竜です。また、ハルティコサウルスとりリエンステルヌスはケラトサウルス類に属します。これらは、テキサス州の後期三畳紀の地層から発見されます。かつて最占の鳥ともいわれた不思議なプロトアヴイスも、おそらく小型の肉食恐竜だったと思われます。
後期三畳紀の北アメリカには、2つの植物食恐竜グループも存し在しました。そのうちの大半を占める多数派は、南アフリカのフアプロサウルスの親戚である原始的な鳥盤目恐竜であり、特殊化した形状のから見分けることができます。ニューアーク層群ではガルトニアとペキノサウルスが、チンリ層群ではレヴェルトサウルス、ルシアノサウルス、テコヴァサウルスが発見されています。これまでに述べた恐竜(ヘルレラサウルス類、ケラトサウルス顆、原始的な鳥盤目)はすべて比較的小型で、大きくても全長3m程度です。
もうひとつの植物食恐竜グル ープは古竜脚類ですが、これらは少数派にすぎませんでした。最も有名なものは西ヨーロッパのプラテオサウルスで、全長は9mもあったと思われます。北アメリカではこの恐竜は、残念ながらごくわずかしか知られておらず、その大部分は、部分的な脊椎骨か特殊な形状をした歯しか見つかっていません。
後期三畳紀の肉食恐竜 の分布
後期三畳紀の北アメリカの恐竜に関する記録は、他の多くの地域のものとはまったく異なります。最も豊富なのは、南アメリカと西ヨーロッパですが、いずれの地域でも、カール期からノール期へ時代が移るにしたがって次第に恐竜の数が増え、ノール期とレート期には、恐竜は地球上で最も数の多い動物になりました。これらの地域で一般的な恐竜は古竜脚類ですが、北アメリカでは後期三畳紀を通じて恐竜自体が希少で、古竜脚類はいくつかの骨格が発見されただけです。
第二のちがいは北アメリカに生息した捕食者の種類です。アフリカ、インド、南アメリカなど、もともとゴンドワナ大陸だった地域では、ヘルレラサウルス類が唯一の肉食恐竜です。後期三畳紀の西ヨーロッパは北アメリカの恐竜生息地城よりも北にあり、唯一の肉食恐竜はケラトサウルス類でした。北アメリカには前述のと
おり、ケラトサウルス類もヘルレラサウルス類も存在していました。
後期三畳紀の超大陸パンゲアには、地域によって3つの異なる肉食恐竜の生息パターンがありました。すなわち、(1)南部はヘルレラサウルス類のみ、(2)赤道周辺地域ではヘルレラサウルス類とケラトサウルス類の両方、(3)北部にはケラトサウルス類のみが生息していたのです。
北アメリカにおける三畳紀の恐竜の生態学
有名なニューメキシコ州のコエロフイシスの化石の発掘場所は例外として、後期三畳紀の北アメ リカにおける恐竜化石の標本は、すべて断片的なものです。数多く生息していたフイトサウルス類などの骨は、川の中や川辺にで
きた岩に眠っています。それと対照的に、大部分の恐竜の骨は川から離れた乾燥地に眠っています。非常に乾燥した平原の近くに非常に湿った地域が存在することは奇異に感じられるかもしれませんが、この現象は乾燥地に大河が流れる現在の世界でも珍しいことではありません。
川の近くの湿った土地では、恐竜よりも先に現れたフイトサウルス類、アエトサウルス類などの 4足歩行の大型主竜類がわがもの顔でくらしていました。後から現れた恐竜は、彼らのいない、乾燥した地域でくらすようにな
りました。草木の陰に身をひそめて、すばやく動くことができる能力を利用して、昆虫や小動物を捕らえていたのでしょう。こうして恐竜は乾燥地での生活に適応していったのです。
北アメリカで三畳紀の恐竜が希少な理由
後期三畳紀に世界の他地域では恐竜が増えたのに、北アメリカでは少ないままだったのはなぜでしょう?この疑問に答えるには、北アメリカで恐竜が発見された場所の古環境と後期三畳紀の気象変動に着目する必要があり
ます。
南アメリカと西ヨーロッパにおける後期三畳紀の動物相をみると、古い時代であるカール期の岩には水生のフイトサウルス類、プロテロチャンプサ類(現生の南アメリカに生息するワニに似た主竜類)や両生類などが含まれます。ノール期後半には水生動物は希少になるか絶滅し、恐竜にとって代わられました。
いっぽう、北アメリカではフイトサウルス類などの水生動物が後期三畳紀を通じて生息していました。このことから、後期三畳紀の北アメリカは恐竜の生息に適した乾燥環境でなかったことが明らかで、これが恐竜化石が少ない大きな理由です。
南アメリカやヨーロッパなどでは後期三畳紀に気候の乾燥化が進み、恐竜が優勢になりました。とくに北アメリカでは希少な存在だった古竜脚類は、乾燥期の南アメリカとヨーロッパでは支配的な恐竜でした。つまり、最も乾燥した地域に生息した恐竜群は古竜脚類であったと思われるのです。
北アメリカでもジュラ紀には乾燥 した気候が続きましたが、恐竜が繁栄するためには、このような環境 になるまで待たなければなりませんでした。三畳紀終盤になり、北アメリカ西部では劇的な乾燥傾向が生じました。恐竜が北アメリカ大陸において優勢な陸上動物になったのは、まさにこの時期以降のことです。そしてジュラ紀の初期には世界的に乾燥した気候になり、
恐竜はついに地上を席巻したのです。
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